無目的書庫

駆け出しスポーツライターの書置場です。

昭和と平成の境界


2015年11月15日。プロレスファンのにとって一つの時代が幕を閉じました。


ミスタープロレス天龍源一郎さん(以下、敬称略)の引退でございます。

 


最近バラエティ番組でのご活躍が目立っておりましたが、
日本プロレス史に神のごとく君臨する
ジャイアント馬場アントニオ猪木の両氏から
唯一ピンフォール勝ちしている日本人レスラーとして、
65歳となった今でも第一線でご活躍されておりました。


ONE PIECEで例えるなら、白ひげのような存在として
プロレス界に君臨する「生ける伝説」ですね。

 


今年の頭に11月での引退宣言をされた時には、
まあ年齢のこともあり「いよいよか」とだけ思っておりましたが、
8月頃にとある事件が起こりました。

 


引退試合の相手が、
現役バリバリのIWGPヘビー級王者 オカダ・カズチカに決定したのです。


彼は業界一の団体・新日本プロレス所属の27歳。
プロレス人気復権の立役者と言われており、抜群の身体能力とスター性で、
これからのプロレス界全体を背負って立つ存在と言われています。


2013年末にプロレス大賞2連覇の席でオカダ選手が、
「猪木・鶴田・天龍は僕と同じ時代じゃなくて良かったですね。」
と昭和の名レスラーを貶める発言をしていたことに
「ふざけんじゃねえぞ!」と天龍さんが憤り、
今年8月の新日本プロレス「G1 CLIMAX25」優勝決定戦に乱入。
以下はその際のやり取り。

 

--------------------------------------------

(天龍)
「オイ、新日本! 俺の引退試合の相手を決めるんじゃないのか? 
 ハッキリせいや!」
(外道)※レスラー兼オカダ選手のマネージャー
「天龍さん、レインメーカー待ちですか? 
 レインメーカーが出るまでもねえ! 答えはノーだ!」
(天龍)
「オイ、昭和のプロレスを味わう最後のチャンスだぞ?」
(外道)
「アンタの功績は認めるが、これはアンタのためなんだよ!」

(オカダ)
「天龍さん、引退されるそうですね。お疲れさまでした! 
 天龍さんにひとつだけ言わせてください!僕と同じ時代じゃなくてよかったですね!」
(天龍)
「オイ、アンちゃん! 吐いた唾は飲み込むなよ、コノヤロー!」
(オカダ)
「天龍さん、11月15日、どうなっても知らないですよ?それでもいいならやりましょう!」
(天龍)
「よく言ったオマエ!俺はその日まで楽しみに一生懸命に身体、鍛えてやるよ」

--------------------------------------------

 


ということで、65歳の伝説的レスラーと27歳の若手レスラーが
1対1のシングルマッチでぶつかるという
前代未聞の事態になったわけです。


ファンのワクワクは最高潮。
その一方、天龍さんは今年の初めから何度も手術をしており、
「まともにやったら天龍がリング上で死ぬんじゃねえのか・・・・。」
試合決定後の気持にそんな感じがあったのは否めませんでした。

 


そしてそれから3ヶ月。
天龍とオカダ両氏による誌面での舌戦が繰り広げられる中、
ついに当日を迎えました。


まずは、外道を従えてIWGPヘビーのベルトを巻いたオカダが登場。
場内は珍しく大歓声とブーイングが入り交じる。


そして、おそらく最後になるであろう「サンダーストーム」が
場内に鳴り響き、天龍が入場。
50年以上に渡る格闘技人生が醸すオーラは別格でしたね。


いよいよ運命のゴング。


黒のショートタイツで新時代に立ち向かう天龍。
正直、歴戦の戦いで食らってきた攻撃で身体はボロボロでした。
しかし、隙あらば全盛期を彷彿とするグーパンチや逆水平チョップ、
パワーボムを繰り出す天龍。


それに対し、オカダも天龍に同情することなくいつもと変わらない、
いやそれ以上のドロップキックやハイフライムーブを展開。


それは確実に天龍のパワーを削いでいく。


そして必殺技レインメーカーでフィニッシュ。
海野レフェリーが3カウントで天を仰いだ瞬間の顔は忘れられません。


天龍源一郎引退試合 60分1本勝負】
×天龍源一郎
(17分27秒 レインメーカー→片エビ固め)
オカダ・カズチカ


今年一番のベストバウトであったかと思います。


3カウント後、オカダは天龍に一礼。
そして何も言わずバックヤードへ。
なんてできたレスラーだろうと思いましたよ。


以下、オカダの試合後のコメント。
--------------------------------------------
(オカダ)
「見てもらったら、わかるように!
 これが昔のプロレスといまのプロレスの違いだ。
 ああ? 技も出してねーぞ? ああ? 
 それが昭和のプロレスかわからない。
 これが昭和のプロレスかもわからない。
 もしかしたら、平成のプロレスとも違うかもしれないし。
 ただ! 年下のスゲー後輩の俺が言ってやる。天龍さんアッパレだよ! 
 それ以外はとくにありません!」
--------------------------------------------


今日の試合で、天龍源一郎は昭和プロレスを。
オカダ・カズチカはいつもの新日本プロレスを体現。


だけど、昭和だろうが平成だろうが
プロレスの根本的な面白さはどちらも共通で、
しっかりと自分の味や技を出して、しっかりと相手の技を受け止める
ものであったということが今日の試合でわかったのです。


一時期、総合格闘技の台頭でプロレスは死んだような風潮がありましたが、
いやいやそんなことはねえと。
2人はファンにそのことを再確認させてくれました。


天龍源一郎が引退しても脈々とプロレスは続いていく。
長々と書きましたが本当にお疲れ様でした!